◯ストレリチアとは
「今までイギリスにもたらされた、最も珍しい、最も華麗な花の一つである。」 これは、ウィリアム・カーチスにより、1787年に発刊された植物雑誌「ボタニカル・マガジン」第4巻にて述べられた言葉で、当時のイギリス国内でのストレリチアに対する熱狂ぶりを伝えている。 1775年、英国王室植物園「キューガーデン」の園長ジョセフ・バンクスが派遣した植物採集人、フランシス・マッソンが、南アフリカの希望峰から持ち帰った、数多くの植物の中に、このストレリチアも入っていた。やがて「キューガーデン」にて、開花した時、国じゅうの人々に驚きと熱狂を巻き起こした、と伝えられている。 そこでバンクスは、熱心な植物愛好家で、植物界の発展に援助を惜しまなかった、時の国王ジョージ3世に因んだ命名をすることにした。属名は、シャーロッテ・ソフィア王妃の実家、ドイツ公爵マクレンバーグ・ストレリッツとし、命名規約に従い、ラテン語風に「ストレリチア」としたのである。語尾の「a」は、ラテン語では女性を意味するから、さしずめ、これは「ストレリッツ家の女性」ということになる、つまり、シャーロッテ・ソフィア王妃を表していることになる、種名は「レギーネ」、これもラテン語で「女王」、「王妃」を意味する。 南アフリカでは「レジーナ」と発音する人が多いが、「g」は「ギ」なのだから、「レギーネ」と発音するのが正しいと思うのだが、命名規約では、読み方の指示はないから、お国ぶりであっても間違いとは言えない。また、書く時には、正しく「ストレリチア」としても、話す時は「ストレチア」と「リ」を省略して発音してもよい。
◯ストレリチア ファミリー
その後、次々と他のストレリチアが発見され、整理、分類が行われてきた。
ストレリチア の分類
有茎種(大型種) | ニコライ | ロシヤにてニコライ皇帝の温室で初めて開花したので名付けられた。「オーガスタ」とは、古いエングラーの分類で、現在では消えている。 |
| アルバ | 「白い」という意味。インド洋沿いのチチカマ森林に自生する。花弁は、青紫色が普通なのに、この種だけは白色。 |
| コウダータ | 「尾がある」という意味で、花弁の下部に尾のような突起がある |
無茎種(小型種) | レギーネ | ごく一般的に普及しているストレリチア |
| ジャンセア | 葉が小さい、或いは消えている(詳しくは後述する) |
ストレリチアの染色体数
ニコライ | 2n | 14 |
アルバ | 2n | 22 |
レギーネ | 2n | 14 |
ジャンセア | 2n | 14 |
実験結果では、「ニコライ」と「レギネー」とは、染色体数が同じであるにかかわらず、交雑、交配は成立したことがない。不可能なのかもしれない。 遠い昔に分かれて、進化してきたので、お互いがあまりにも、かけ離れてしまったために違いない。
ファン•ダ・フェンター氏による
◯ストレリチアの花の色
ストレリチアの花の色は、有茎種の白色、無茎種はオレンジ色と黄色である。ストレリチアでは、花弁のように見える部分は、正確には萼片であり、正しい花弁にあたるのは、青紫色の細長い部分であるのだが、便宜上は花弁のように見える萼片の色彩を指すこととする。
厳密にいえば、有茎種の白色は、実際は完全な無色の白色ではなく、わずかに黄色の色素が入っている、つまり薄い黄色。それが、人の目には象牙色〜白色に見えるのである。 無茎種の花弁のオレンジ色は、顕微鏡で見れば、黄色色素と赤色色素が散在していて、これが人の目にはオレンジ色として映るのである。黄色花は、この赤色の色素がなくて、黄色だけなのである、この黄色色素は、ストレリチアでは、「カロテン」、赤色色素は、「アントシアニン」ということである。
なお、黄色種の出現は、赤色色素の遺伝が消し去られたものではなく、遺伝子同士の力関係で、赤色の発現が抑制され、黄色の遺伝子だけが発現されたと、見る方が正しいのではないだろうか。この推論でいけば、黄色の遺伝子が抑えられ、赤色の遺伝子だけとなれば、赤い花が出現することになるのだが、実際には、このようなことは起きていない。それは、黄色は基本的な色素であり、後から生まれた赤色は消えることはあっても、黄色はしぶとく残るであろう、ということである。また、黄色の色素が少なくなれば、象牙色や白色に近づくのではないかと思われるが、これも実際には起きていない。 ストレリチアの花の色の変化は、このように簡単なことではないのだが、この不可能に思われる事柄が、今後の研究によって、どんな花色が現れてくるのか、その実現が望まれる。 オレンジ色種と黄色種との交配では、メンデルの法則に従っていて、雑種第一代は、全てオレンジ色となる。つまりオレンジ色の方が、優性なのである。但し、第2世代以下の出現の割合は、ストレリチアは、エンドウ豆そっくりではない。 今後、遺伝子組み替え技術がどれだけ進歩するか、まだ議論の段階に至ってはいない。
以上は、学名のことだが、和名(日本名)では、「極楽鳥花」と呼ばれる。これは、英名の「Bird of paradise flower」(バード オブ パラダイス フラワー)の日本語訳で、ニューギニアに棲息する「極楽鳥」に似ているということでの命名である。但し、これは似ている、というだけであって、両者の関係は何もない。しかも困ったことに、パラダイス(楽園)を「極楽」と訳したために、日本人の中には、地獄、極楽の意味に捉え、ストレリチアは、葬式や仏事の花である、などの見当違いの誤解まで生じている。 この他には、「Crane Flower(鶴の花)」という名称もあり、中国では、鶴望蘭とも呼ばれている。いずれも花の形を鳥に見立てているところが面白い。 この鳥の頭に似た花形と鮮やかな色彩は、蜜を吸いながら花粉を運んでくれる鳥に来てもらうための進化であろうと思われる。事実、この花に集まってくるのは、蝶やミツバチのような昆虫ではなく、鳥であって、自生地の南アフリカでは「サンバード(太陽鳥)」なのである。我が国では、「メジロ」が来ることはあっても、蜜の吸い方を知らないために何の役にも立っていない。
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